1973年暮れから始まったTales form topographic oceansの公演はイギリス、アメリカ、ヨーロッパ各国と続き1974年4月23日にローマ公演で終了しました。リック・ウエイクマンは、この合間の1974年1月18日に、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで、地底探検のライヴ・レコーディングを行いました。そして、その地底探検は、メロディー・メーカーのアルバムチャートで1973年6月15日に1位に輝き、これを契機にリック・ウエイクマンはイエスを脱退してしまいました。脱退の原因の一つは海洋地形学の物語の録音とそのツアーの不満、スティーヴ・ハウとの音楽的方向性の対立など伝えられていますが、どうだったんでしょう。
次に、イエスが接触したのがスイスのパトリック・モラーツです。パトリック・モラーツは、当時、レフュジーのキーボード奏者でしたが、同バンドを解散し、1974年8月に加入の契約を行いました。スタジオ録音第7作目に当たる「リレイヤー」は、1974年の晩夏から秋にかけて録音され、11月に発売されました。ロジャー・ディーンのグレイを基調とした見開きジャケットに、LP盤の中心部のレーベル部分にも絵が刷り込まれています。
Gates Of Delirium
冒頭の「錯乱の扉」は、戦争と平和がテーマの曲。ジョン・アンダーソンによる記号的言葉の羅列は相変わらずながら、前に比べりゃちょっとは分かりやすくなったかなぁというところでしょうか。パートごとの副題は付けられていないものの、前半が戦争で後にエディットされる「スーン」の部分が平和であろうことは容易に感じ取れます。
リック・ウエイクマンの優等生的な奏法を受け継ぐことなく、大胆にもパトリック・モラーツはパーカッシヴに鍵盤を操っています。錯乱の扉では中盤以降の戦闘シーンを想起させる怒涛のバトル・アンサンブルは彼ならではのものですね~。そして、破壊的に繰り広げられた演奏から一気に暗雲が消え去り静寂が訪れた後に、ジョン・アンダーソンにより歌われるスーンの美しいこと美しいこと。
Sound Chaser
第5期イエスの真骨頂とも言えるサウンドを呈しています。一触即発の究極のテンションのインストバトルです。イエスの楽曲中、ここまでテンションが高く、瞬発力のある曲は他に見出しえません。初めて聞いたときは、頭がくらくらしそうなくらいでしたよ。超絶技巧をサラッと聴かせるフュージョン系のノリに近い出だしから、スティーヴ・ハウのフラメンコ風のソロ・ギター・パートあり、ケチャ風コーラスありとやりたい邦題って感じですね。
To Be Over
最後のトゥ・ビー・オーヴァーは再び平和を感じさせる曲。キーボードとスチール・ギターによる静寂の導入部から流れるようなキーボードのソロまで実に美しく構成されています。
リレイヤーは、イエスのアルバム人気投票なんてのをやると、必ずといっていいほど、コアなファンの人たちは、危機や壊れ物を抑えて、このアルバムを選んでしまうほど、不思議な訴求力を持ったアルバムです。
こうして映像で見ると、どのパートを誰がどのように演奏しているのかがよくわかりますね。アランホワイトが鉄琴を叩いているところなどへーって感じ!スティーヴ・ハウは始終弾きまくっていますが、タイム感が怪しくって乗り切れていない感じですね。この緩さがイエスの特徴でもあるのかもしれないのですが。ジョン・ペトルーシあたりが弾けば、アンサンブルの縦の線がビシッとキマるんでしょうけど。