彼らの音は、時とともに大きく変化して来ました。デビュー以降、このアルバムと次作のムービング・ピクチャーズ辺りまでの間に1970年代後半のハードロック・シーンの進化系とでもいうべきサウンドです。
初期のラッシュは、バイター・アンド・スノードッグや2112などの組曲的なプログレッシヴな作風による大曲を創り上げ、その後、それらの中で試みられた変拍子の用法やシンセサイザーの導入などを比較的短い曲の中に凝縮する手法に変わりました。このアルバムは、丁度そうした時期のアルバムです。
ラッシュは、プログレ原理主義者的な人たちからは、どこをもってプログレと言うのか、ただのハードロックではないかと蔑視されていた感がありましたが、きっと、そういう人たちはギターにディストーションのエフェクトがかかった瞬間に拒絶反応を起こしてしまう許容範囲の狭い人たちなのだと思われます。ラッシュの音の中でも特にこのアルバムと続くムービング・ピクチャーズのギターの歪み具合がチューインガムを奥歯でぎゅっと噛むような感じで脳内にドーパミンを噴出してくれるんですけどね~。
ラッシュは、音楽の面白さとともに、ニール・パートの書く歌詞にも非常に重みのあるバンドです。今作からは社会風刺的な側面も加味されました。
それを象徴するかのような曲が冒頭のスピリット・オブ・レディオです。ラジオから届けられる素晴らしい無料の贈り物,音楽の自由を信じたいが、利益のための歌詞が書かれ、セールスマンの音がコンサートホールに鳴り響く・・・という内容です。どこかの国の金太郎飴のような音楽を量産している人達やそれを聴いて悦に入ってる人たちに煎じて飲ませてあげたい音です。