Cafe Evil 9

ごくごく普通の何の変哲もない平凡でどこにでもあるようなブログです♪

Yes / Tales from Topographic Oceans

 Yesが1973年にリリースした6枚目のスタジオ・アルバムです。
 1973年3月8日から14日まで、Yesの日本公演が行われました。この前後の日程を見ますと、日本公演の前日3月7日に日本でイエスのメンバーとロジャーディーンの記者会見が行われており、また、17日には既にオーストラリアで公演が行われているため、イエスのメンバーが東京に滞在していたのは、7日から15日頃までの数日だと思われます。

 なぜ、滞在期間のことを書いたかというと、このツアー中、東京のホテルに滞在している間に、ジョン・アンダーソンがパラマハンサ・ヨガナンダ著「あるヨガ伝道師の自伝」を読み、その内容に触発されて海洋地形学の物語のアイデアを思いついたそうなのです。

 この自伝は、サンタナキャラバンサライ制作の契機になったこととしても有名ですが、一体、パラマハンサ・ヨガナンダがどういう筋の人物かは不明です。ネットで調べてみると、ヨガの伝道師のようで、オカルトっぽい怪しげな記載で満ち溢れています。

 私は、ちょっと近寄りたくないタイプですが・・・皆さんはどうでしょう。正当なその筋の人なのかもしれないのですが、所謂普通の人々にとっては怪しいグールーであったことに違いは無いと思います。ジョージ・ハリスンもヨガにハマってたようですし、イギリスのロッカーの流行りだったんでしょうかね~。よく分りません。

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Tales From Topographic Oceans 「海洋地形学の物語」
1:表、2:見開きの内側、3:US盤のレーベル、4:邦盤のレーベル
【収録曲】
The Revealing Science Of God - Dance Of The Dawn 20:27
The Remembering - High The Memory 20:38
The Ancient - Giants Under The Sun 18:34
Ritual - Nous Sommes Du Soleil 21:35c 邦題:1.神の啓示 2.追憶 3.古代文明 4.儀式

 こうして、ジョン・アンダーソンは、日本~オーストラリア~アメリカのツアーの途中で、上記自伝から受けたインスピレーションと次作の構想をスティーヴ・ハウに話し、一気に曲を書き上げ、ツアーが終わる頃には、もう殆ど仕上がっていたということです。ツアーの最終日は4月22日のフロリダでしたから、4月半ばには、既に楽曲が出来上がっていたということになります。着想からひと月半ってとこですね。ジョン・アンダーソンの言葉によれば魔術的体験だったそうですよ!

 危機以降、ジョン・アンダーソンの観念詩は難解を極め、本作ではそれが遂に行くところまで行ってしまった感があります。趣味・嗜好が全面に出てしまい、聴衆の受容は頭の隅からも消えうせ、逆に見れば、このアルバムは「やりたいことをやって見せてくれたもの」という位置付けになるのだろうと思います。

 発表後の評論は賛否様々であったようですね。でも、個人的な評価は極めて高いんですよ。冒頭の黎明混沌とした経を唱えるかのようなコーラスをリック・ウエイクマンのシンセがファンファーレを鳴り響かせるかのように断ち切りいきなり主題が提示される導入部を聴いただけで、既に「参りました」と言わざるを得ない迫力に満ちています。

 書く収録曲に若干冗長な点があり、特に2曲目の冗長さが個人的にはちょっときついかなぁという感じがするところは否めないものの、作曲の技法が危機の4部構成を拡張し、2枚組み4楽章構成としたものであることは、I get up,I get downとThe Ancientの位置関係を見るまでもなく明らかですよね。

 また、神の啓示で提示された主題は展開されて随所で再現されるなど、交響楽的色彩も十分伝わってくる仕上がりとなっています。古代文明におけるプリミティブなアンサンブルとハウのギターの対比も素晴らしいです!しかし、何より20分台4曲による一代コンセプトアルバムをここまでの完成度で示してくれたことに感謝しなければならないと思います。

 アルバム発売後、イエスは、イギリス・ツアーを行っています。「Yes in concert / Nationwide tour featuring Tales From Topographic Oceans」と題されたそのツアーは11月16日ロンドンに始まり12月10日のエジンバラのエンパイアまで行われています。この間のセットリストは、前半が、アルバム危機から、そして、後半、海洋地形学の物語を全曲披露するものであったそうです。

 さて、私がこのアルバムを購入した大昔、子供の頃の究極の選択のお話しです。

 KISSの来日で洋楽に目覚め、NHKのテレビで放映されていたヤング•ミュージック•ショーやFM放送で少しずつ聴きたい音楽の幅が広がり、プログレの長尺曲に少しは免疫ができてきた時期に、LP2枚組4曲というアルバム の存在に気付きました。それが、イエスの海洋地形学の物語とタンジェリン・ドリームのツァイトでした。

 イエスの4曲の邦題は、神の啓示、追憶、古代文明、儀式。タンジェリン・ドリームのZeitの意味は時間ですが、邦題は、「われら、時の深渕より叫びぬ! 」という大仰さ!そして4曲の邦題は、輝けるプレアデスの誕生、めざめゆく未明の宇宙 、超自然の起源、ツァイト(時) 。なかなか訴求度大ですよね。

 ジャケットデザインは方やロジャー・ディーンの神秘的で美しい風景。方や漆黒のブラックホール的な闇の絵。どちらも方向性は異なるものの、買って帰れと相当強力に訴えていました。

 結局、子供心にヤバそうな香りがムンムン漂っているタンジェリン・ドリームは避けて、イエスを選択しました。衝動よりも理性が勝利した瞬間だったのでしょうね。タンジェリン・ドリームのツァイトを聴いたのは、それから数十年後です。あの時、なけなしのお小遣いでツァイトを選択してしまっていたらと思うと、背筋が寒くなります。振り返ると、やはり理性というのは大事なのだなぁと……。