ジャズにもいろいろありますよね。甘美なもの、思索的なもの、先鋭的なもの、前衛的なもの、呪術的なもの、言葉を重ねるとキリがありません。その昔、ジャズ喫茶の醸し出す雰囲気は、一種異様でした。お洒落な音楽が聴けるお店というよりは修行の場という雰囲気でした。威厳があるとは思いませんでしたが西部劇に出てくる場末のバーのような危険な空気が漂っていました。店がそうさせているのか、そこに居付く客のせいなのか、きっと双方なんでしょうけれども敷居がちょっと高い印象でした。ジャズは、なんだか求道的な音楽に思えました。
1980年前後、未熟さのあまり聴く気にはなれませんでしたが日本の女性ジャズ歌手なるもののテレビ露出度が微妙に高くなった時期がありました。当時、何かの番組で故ジョージ川口氏とともにある女性ジャズ歌手がゲストで登場する場面がありました。司会者のジャズとはどんな音楽かという質問に対して女性歌手が「暗い音楽」と答えるや否やジョージ川口氏が「ジャズとは楽しい音楽だ」ということを説教口調で語っていたのをよく覚えています。筒井康隆氏の短編小説「ジャズ大名」では楽譜が示され、単純なメロディーが次第に複雑にアレンジされてゆく過程がスラップスティックな感覚で実に楽しく描き出されていました。
「ジャズは楽しい音楽である。」・・・と、最初に感じさせてくれたのが、このアルバムに収録された1曲目のセント・トーマスでした。ソニー・ロリンズのオリジナルで、カリプソ調のリズムを用いたユーモラスな主題の曲です。ロリンズのアドリブは、速過ぎず緩過ぎず、しかもカッコよさのツボも押えて、しかも分かりやすいものでした。こんなヘンテコな主題をここまでカッコよく聴かせてしまえるのはジャズの特権だなぁと思いました。
君は恋を知らないはジーン・デポール作曲のバラードでかなり線の太いロリンズの演奏とトミー・フラナガンの繊細なピアノの対比が美しい曲です。続くストロード・ロードは急速調の演奏でカルテットの本領発揮といった感じのハイテンションな演奏です。モリタートの別名はマック・ザ・ナイフ。クルト・ワイル作曲の三文オペラのなかで歌われた曲をジャズにアレンジしたものとのことです。ブルー・セブンはロリンズのオリジナルのブルースです。
St. ThomasがSide 2 に...Σ(@◇@|||
写真のLPはサキソフォン・コロッサス・デラックスという国内盤です。通常盤のサイド1と2が逆になっています。色々調べたのですが理由は分かりませんでした。付属の岩浪洋三さんの解説では、Moritatの演奏が日本でソニー・ロリンズの人気を決定づけた1曲であると書かれていましたので、そのあたりなのでしょうかね。