しかし、その一方で、彼のリーダー作はといえば、数えるほどしかないと言われています。そんな中、誰もが認める代表作がこの「オーヴァー・シーズ」です。
彼はJJ・ジョンソンのコンボのピアノ弾きとして3年間ツアーを行いましたが、そのツアー中にスウェーデンで録音したのがこのアルバムです。録音は1957年8月15日。レーベルはメトロノーム・レコーズでした。写真をみると、白抜きの文字で「TOMMY FLANAGAN OVER」とありますが、その左上の文字が「METORONOME」になっています。因みに、このアルバムは、その後、プレスティッジを通じて世界的にディストリビュートされたため、当時のアルバムを見ると、この「METORONOME」の文字が「PRESTIGE 7134」に替えられています。
当時は、ジャズの人脈など頭の隅にさえなく、ホントに何の知識もない状態で貪るように聴いていましたので、いいメロディーだけが、す~っと体に入ってくるようなそういう状態でした。もともとはテナー・サックスの曲でしたが、ピアノによる楚々とした演奏は、また、格別な味わいでした。
収録曲は、アップテンポなリラクシン・アット・カマリロに始まり、アルバム全体に、緩急、静動、様々なタイプの楽曲がバランスよく散りばめられています。
そんな中に「ヴェルダンディ」というタイトルの小曲がありますが、これを聴くと、トミー・フラナガンはバド・パウエルのようにも演奏可能なことが分かります。かなり器用な人だったんですね。急速調のマイナー・コードのメロディーを正確に打鍵する様からは、全くサイド・マン的な要素は感じられません。シンプルなトリオ編成で「意外と弾けるでしょ」みたいな音を聴かされてしまうと、驚きのあまり、ちょっと唸ってしまいます。