カンサスは1970年に結成されたアメリカのバンドです。アメリカン・ハード・プログレッシヴ・ロックの代表格!明解なメロディーラインの歌曲をハードロック的な音色でシンフォニックに演奏する当時としては他に類を見ない独特のバンドでした。
イギリスのプログレがガラス細工的であるのに対し、彼らの音は丸太小屋のように骨太でした。1974年のファーストアルバムに収録されたJourney from MariabronnとDeath of Mother Nature Suiteを聴くとデビュー当時から彼らの音は完成されていたことがよくわかります。
1969年から1973年の間にイギリスではメジャーどころのあらゆるタイプのプログレ作品が出揃った感がありましたが、彼らは、それらを十分に吸収し、アメリカ南部独特のアーシーなロックで消化し切っていました。
そうした音は、その後の2年間で随分と収斂され、その結果出来上がったのがこの第4作目のアルバムでした。邦題は「永遠の序曲」。邦盤の帯には「ロックは遂にここまで来てしまった!知的な感性と、驚異のテクニックが、クラシックをベースに織りなす衝撃のサウンド!」と記載されています。
本作が発売されたころから、カンサス等の音楽はアメリカン・ハード・プログレ(orアメリカン・プログレ・ハード)というカテゴライズをされるようになりました。他にイーソス、スターキャッスル、スティックス、ボストン、一時期はジャーニーまでもかかるカテゴリーに入っていました。スターキャッスルはイギリスのプログレッシブ・ロック(特にイエス)の影響が前面に出過ぎていますしスティックスらのプログレッシヴ色は風味として感じられ程度ですことから、言葉どおりアメリカン・ハード・プログレという言葉が適切に当てはまるのはKansasとイーソスくらいであろうと思われます。
さて、本作は、楽曲においてもアルバム全体の構成においても非常に練り込まれたものです。例えば、冒頭のCarry on wayword son(邦題:伝承)。Carry on my wayword sonで始まる印象的なア・カペラのコーラスだけで急速にKansasの描く世界に引きずり込まれてしまうのですが、コーラスが終わるや否や曲はハードに展開し、続くボーカルパートではピアノのアルペジオをバックに再び切々と歌い上げられ、このような静と動を巧みに操るアレンジによって曲が進行して行きます。アルバム全体のバランスも同様に2曲目のThe wallは静、続くWhat's on my mindは動という構成をとっています。
収録曲について特筆するとすれば、Miracles out of nowhere(邦題:奇跡)とCheyenne anthem(邦題:黙示録)です。イントロ、ボーカル・パート、中間部のインストルメンタル・パート、そしてエンディングに至るまで、寸分の隙もない見事なプログレッシヴ・ロックです。過去のすべて国のすべてのアーチストのすべての音源の中でただ1曲を選ぶとすれば、間違いなくこのいずれかを選ぶかもというくらい思い込みを強く出来るそういう曲です。
ボックスに添付のブックレットにはいくつかの裏話が紹介されていました。一つは、Carry on wayword sonは、当初収録の予定がなかったということ。信じられない話しですが、ケリー・リブグレンがリハーサルを終える直前にメンバーに聴かせた曲にア・カペラのパートをつけてみたところアルバムの冒頭に収録することに決まったのだそうです。・・・・ちょっと成功秘話っぽい作り話のような気がしないでもないですが、まぁ信じることにしましょう。
Kansasは本作の成功により、一躍スターダムにのし上りました。冒頭のCarry on wayword sonがAM曲でブレイク。1977年4月にビルボードで11位を記録しました。アルバムの売り上げも77年1月25日に50万枚(ゴールド)、3月15日に100万枚(プラチナ)、6月に200万枚、現在では300万枚を超えるといわれています。因みに過去のアルバムのセールスは、1stが10万枚、2ndと3rdが25万枚でした。