Cafe Evil 9

ごくごく普通の何の変哲もない平凡でどこにでもあるようなブログです♪

はじめてのぷろぐれ 〜Young Persons' Guide to Progressive Rock〜

 SSDから発掘した2004年に書いた古文書です(^^;;
 "プログレをこれから聴いてみよう"という人たちに厳選してお薦めする、プログレを概観するための必聴盤5枚です。プログレという言葉で括られる音楽は、実にへんちくりんなもの偏屈なものも沢山あります。自分自身の感性というか運を信じて、自爆的にハマるのもひとつの方法ではありますが、まず王道を極めてから先に進むのも悪くないでしょう"^_^"

King Crimson - In the court of the Crimson King / 邦題「クリムゾン・キングの宮殿


(1969.10) King Crimson - In the court of the Crimson King

King Crimson - In the court of the Crimson King(インナー)
 1969年10月に発売されたアルバムです。
 当時、イギリスには、ドラムス、ベース、ギター、キーボードという一般的なロックで用いられる楽器に加えて、ブラスを用いて、枯れた感じのブルージーな演奏をする所謂ジャズ・ロックのバンドが数多くありました。このキング・クリムゾンの1stアルバムは、そういったバンド構成でありながら、全く異質な、重く壮大な音世界を築きました。英国のアルバムチャートでは、当時独走していたビートルズアビーロードを抜いて1位となったといいますから、このアルバムが持つ音の衝撃は、想像が付くのではないでしょうか。
 冒頭の21世紀の精神異常者ではブラスセクションとギターの厚みが異常な緊迫感を創り出し、続く風に語りてではフルートが、ちょっとクールダウンしたいい味を出しています。エピタフでは、メロトロンによる重厚なイントロを経て、ギターのアルペジオを伴奏にピート・シンフィールドの詩をグレッグ・レイクが切々と歌い上げます。ムーン・チャイルドはまさに幻想的音世界そのもの、フリーフォームで前衛的な後半部分をはさみ、終曲クリムゾン・キングの宮殿では、再びメロトロンによる壮厳な交響楽的演奏で古の宮殿の物語が綴られます。このアルバムにおけるメロトロンの使い方は、後の数多くのプログレッシヴ・ロック・バンドに影響を与えました。

Pink Floyd - Atom Heart Mother / 邦題「原子心母」


(1970.10) Pink Floyd - Atom Heart Mother

Pink Floyd - Atom Heart Mother(インナー)
 ピンク・フロイドは、当初、サイケデリック・ロックの旗手的存在でした。簡単に言えば、楽曲は割と普通なのですが、かなりラリって濁ったちょっと危険な感じの音でした。しかし、彼らの音は、1970年10月に発表されたこの原子心母を境目として、革新的に進歩しました。また、プログレッシヴ・ロックのシーン全体を見渡してみるときに、この原子心母こそシンフォニック・ロックを開花させた決定的な作品であるといえると思います。ロック・バンドの演奏するノイズ雑じりの音とクラシック畑の演奏者の音との融合・調和がこれほどまでに完成された作品は他に類を見ないでしょう。
 タイトル曲「原子心母」は、雄大な主題を持つ交響楽的な楽曲です。23分強にわたる大作で、ホーンセクションとコーラス隊、そしてストリングスによるオーケストレーションが全面にわたってなされています。また、楽曲の随所にエンジン音や爆発音等多数の効果音が散りばめられているのですが、それら効果音は前衛音楽的な効果ではなく、楽曲の一音として緻密に融合されています。
 この原子心母の国内初盤LP、OP-80102の帯とライナーの表紙には、「ピンク・フロイドの道は、プログレッシヴ・ロックの道なり!」というキャッチコピーが付けられていました。これが、我が国におけるプログレッシヴ・ロックという言葉の起源だと言われています。
 さらに、プログレッシヴ・ロックのアルバムは、ジャケット・デザインも大きな魅力のひとつです。この"見返り牛"のカヴァー・アートは、アート集団ヒプノシスを代表する作品の一つです。

Emerson,Lake & Palmer - Trilogy / 邦題「トリロジー


(1972.6) Emerson,Lake & Palmer - Trilogy

Emerson,Lake & Palmer - Trilogyr(インナー)
 エマーソン・レイク・アンド・パーマーは、メンバーの名前の頭文字をとってELPと呼ばれています。キース・エマーソン(キーボード)、グレッグ・レイク(ベース、ギター、ヴォーカル)、カール・パーマー(ドラムス)のトリオ編成のバンドで、キース・エマーソンの弾くキーボードが特徴です。協奏曲のピアノのようでもあり、ジャズ・トリオのピアノのようでもあり、ラグタイムのピアノのようでもある、そんな変幻自在なピアノに加え、オルガンとモーグシンセサイザーを一人で操る姿は超人的ですね"^_^"
 あらゆるジャンルの音楽を吸収・融合して演奏するジャズ・トリオを想像してください。彼らは、そういった演奏形態のバンドです。
 このアルバムの冒頭の曲、永遠の謎は、フリーフォームで混沌とした前衛的なキーボードのソロ・パートで始まり、急速調のトリオ演奏を経てヴォーカルパートに移るまでの緊張感溢れる演奏が、いきなりの見せ場となっています。その後、ピアノソロによるフーガを経て再び主題が提示されて終了するおよそ11分に詰め込まれたアイデアと演奏は驚嘆に値します。亜種の追随を許さない楽曲の構成と演奏技術は30年以上経った今でも、全く輝きを失っていないと思います。このアルバムは、永遠の謎のほか、トリロジー、奈落のボレロの3つの大曲と、グレッグ・レイクアコースティック・ギターの弾き語りによるフロム・ザ・ビギニング、ちょっとユニークな主題のカントリー調の曲シェリフ、フォークダンスで定番のホウダウン、グレッグ・レイクの低音が渋いリビング・シンの4曲の小曲が収録されています。

Yes - Close to the edge / 邦題「危機」


(1972.9) Yes - Close to the edge

Yes - Close to the edge(インナー)
 イエスは、ドラムス、ベース、ギター、キーボード、ボーカルという、ロックの基本的なメンバー構成だけで、信じられないくらい緻密な演奏を聴かせるバンドです。彼らの特徴は、どんなに複雑で技巧的に組み立てられたシンフォニックな楽曲の中でも、決してロックのダイナミズムを失うことがないところです。どの楽曲の中にも、各メンバーの素晴らしいソロ・パート、そして、鬩ぎ合う怒涛のインストルメンタル・パートが設けられており、ヴォーカル・パートでは、ジョン・アンダーソンの声が、全ての闇を取り払うかのように、クリスタルに響いています。そして、全ての楽曲が、イエスというバンド名に負けないだけの肯定的な響きを持っています。まさに、プログレッシヴ・ロック・バンドはロック・バンドであるということを彼らの音楽によって体現できることと思います。
 彼らは、メンバー・チェンジを頻繁に行うことでも有名ですが、ここで取り上げたアルバム「危機」は、ベスト・メンバーであるといわれる時期の作品であると同時に、誰もが認める彼らの最高傑作なのです。収録曲は僅か3曲、LPの時代にはA面が演奏時間18分強の危機、B面が、それぞれ約10分の同志とシベリアン・カートゥルという構成でした。
 このページに掲載した5枚のアルバムの写真は全てLPの写真ですが、このアルバムの傷み具合を他の4枚と比較してみてください。どれだけ、頻繁に回したかがお分かりいただけるのではないかと思います。ちなみに、幻想的なジャケット・アートはロジャー・ディーンの筆によるものです。

Kansas - Point of know return / 邦題「暗黒への曳航」


(1977.11) Kansas - Point of know return

Kansas - Point of know return(歌詞カード)
 前出の4枚は、全て1972年以前のイギリスのバンドで、御三家などと並べてみるのが好きなわが国のマスコミを中心に四天王などと呼ばれている超大物バンドでした。どのアルバムを選ぶかを別にすれば、当該4組が必須であることは誰もが一般に認めるところだと思います。5枚目をカンサスにした理由は、アメリカのポップス・センスとハードロックを前出のブリティッシュプログレッシヴ・ロックに見事に融合した手本であって、しかも、追随を許さない楽曲と演奏の完成度、そして聴き手に対する音のテンションをいまだに維持しているからです。
 カンサスは、ドラムス、ベース、ギター、キーボード、ボーカルに、ヴァイオリンを加えて、より滑らかで重厚なオーケストレーションを創り上げています。ハードロックにクラシック、そしてサザン・ロックの泥臭さも含んだ彼らの演奏形態が成熟して出来上がった暗黒への曳航は、彼らの全盛期の作品です。
 神秘の肖像、孤独な物語、望みなき未来など、ブリティッシュ物とは一線を画するハード且つドライヴ感の強力な楽曲は、当時、"アメリカン・ハード・プログレ"というひとつのジャンルとして確立されました。
 暗黒への曳航は、ジャケット・アートも特徴的です。地球が平らだと信じられていた時代、海の果てに到達した船が奈落に転落する図だけではなく、封入された歌詞カードの凝り様も必見という気がします。見開かれた本に歌詞が書かれ、メモの切れ端に、メンバーの顔がデッサンされ、さらに、別の切れ端にはレコーディング・データが記されているのです。音楽とそれを包み込むジャケットによるここまで緻密なアートは、ちょっとした宝物だと思いませんか。