このアルバムは、全米アルバムチャートの4位にまで上り詰め、400万枚の売り上げを記録したKansas最大のヒットアルバムです。前作に比べ対旋律や随所に配置された装飾音がより緻密になり曲そのものの管弦楽的効果が高められて煌びやかに変貌しています。
アルバム全体の楽曲の配置は、AB面ともに最初はシングル志向の曲、後半はプログレ色の強い大作という構成です。このアルバムは、そうした構成の秀逸さに加え、内容の異なる全10曲を包み込む不思議な整合感、オルガン、ムーグ(最近はモーグって書くみたいですね)、ピアノ、バイオリン、ブライトなギターの音色などが醸し出す重厚荘厳な響きにより、一種コンセプトアルバムかとも思えるほどの一体感があります。
ヒットチャートで最も上位に昇ったのはDust in the wind。この曲は、これまでのkansasからすれば異色とも思えるアコースティックギターのアルペジオをバックにしたバラードでした。もともとケリー・リヴグレンがフィンガリングの練習用に書いた曲だそうです。
4曲目の神秘の肖像は、作者ケリー・リヴグレンによればアインシュタインを歌ったものだそうです。極めて緻密且つ重厚なオーケストレイションが施されたプログレ大作としては、5曲目の孤独な物語、終曲の望みなき未来が挙げられます。
孤独な物語は、オルガンをバックに切々と歌い上げられるハワード・ヒューズ(アメリカの実業家・映画製作者・飛行家・発明家)の物語、神話の世界を描いた映画のクライマックスでも見るような厳めしい中間部等々非常に重みのある曲です。
望みなき未来は、冒頭いきなり、とてもロックバンドの演奏とは思えない重圧な管弦楽団的なアンサンブルで始まる曲です。これを聴かされてしまうと、もう他に比較すべきバンドなど存在しないというしかないです。不自然な超絶技巧やトリックなど皆無、奇妙な前衛性など論外って感じでしょうか。ひたすらポップ且つ重厚です。
一般にぷろぐれのアルバム、特にシンフォニックロックのカヴァーにはシュール・リアリスティックな絵画が用いられることが多いようですが、このアルバムはその典型です。そして、それが最も成功した一枚であるといえると思います。
古代の地球儀或いは水晶玉の様な球体、地球が球体であるということに相反しその中に映し出される帰らずの海と落ち行く帆船、当該球体を取り巻くドラゴン。表ジャケットでは黄金に輝く雲の中から、裏面では暗紫色の水面から小銀河のような波紋を作り姿を現すドラゴン。裏面のドラゴンが取り囲む、本アルバム以降、レコード盤の中央に貼付されたレーベル・シールのデザインにもなった偶像。どの絵画も想像を限りなく増幅させるに余りあるものばかりです。
そして、歌詞は当該書物に記載され、メンバーや製作スタッフの名前は書物の脇に無造作に置かれた紙片に書き込まれています。また他の紙片にはメンバーの顔がデッサンされているという凝りようなのです。
このように、Point of know returnは、収録曲の素晴らしさにとどまらず、装丁の隅から隅まで練りに練り凝りに凝ったアルバムだったのです。
タイトルまでもそうです。Point of know returnのknowは、アルバムタイトルを印象付けるための言葉遊びだそうである。
ロック全般を見渡してみたときに1977年前後には重要なアルバムが数多く発売されています。Led ZeppelinのSound track from the film The song remains the same、Bostonのファースト、RainbowのRising、ScorpionsのVirgin Killer、EaglesのHotel Californiaなどでです。Kansasの作り上げたこのアルバムは、これらストレートな音作りがなされた大ヒットアルバムと時期を同じくするものです。いい時代でしたね〜。