アメリカのプログレ・バンド。トリガリング・ミスが1995年にリリースした3rdアルバムです。トリガリング・ミスは、Rick EddyとTim Drumhellerのデュオです。IE Magazine Interview/Spring 1994/Issue #6によれば、彼らの経歴というか音楽的バックグラウンドは以下のようです。
まず、リックについて。リックは、10代の頃3,4年間トランペットを習い、大学で2年間ギターとピアノを専攻、15歳から20代半ばまで、ヘンリー・カウに影響されてロック・バンドで演奏していました。音楽をはじめたきっかけはビートルズで、70年代のプログレッシヴ・ロックの洗礼を受け、特に、バンコ、PFM、アリア、アルティ・エ・メスティエリなど、イタリアのバンドを中心に、その他あらゆるバンドの演奏を聴き、その後、20世紀初期のバルトークらの古典音楽のほか、非常に多くのジャズにも影響されたようです。ティムは、8年間独学でピアノを習得。数年間に渡りいろいろなロックバンドで演奏した後、ジャズやフュージョンの洗礼を受け、さらにユニヴェル・ゼロやクリムゾンの影響も強く受けたとのことです。
1983年、リックはリッチモンドに住んでいました。そこにはちょっとしたジャズのシーンはあったもののプログレッシヴ・ロックのシーンはありませんでした。そこでリックは、レコードショップに備え付けてあったミュージシャン用の掲示板に、「プログレッシヴ・インストルメンタル・ミュージックに興味のある奴はいないのか?」という書き込みをしました。数日後、ティムのルームメイトから興味のある奴が同居しているという電話があり、ティムに出会うことができました。以来、リックはティムとデュオを組んでいるということです。
トリガリング・ミスの名称は、リックの命名です。リックによれば、彼は、哲学、精神学、事物の実存や現象に強い興味を持っており、バンドの名前は究極の真実とは何かに関する私見の表現であるとのこと。「社会的迷信を引き起こすもの」と解される彼らのバンド名は、実際のところは皆目意味不明ながら、察するに相当に深い意味を持っているようですね。
さて、このアルバムです。アコースティックが一際際立つ繊細且つ耽美な音です。彼らの創り出す音は、どちらかといえばユニベル・ゼロなどのチェンバー系の音に近く、線は細いけれども、深淵に引きずり込むような重さを伴っています。しかも、これに加えこのアルバムの各曲はメロディックマイナーなどちょっと怪しげに響く音階なども巧みに取り混ぜつつ、更に変拍子も多用して技巧的に作曲されています。加えて、キメのフレーズが随所に配されていまして、ライト・フュージョン的若しくはイージーリスニング的にふわふわしたところが一切なく「プログレッシブ・ロックがロックであること」を再認識させてくれるものとなっています。
楽曲の傾向としては前作までの延長線上にあるものの、更に完成度が増している。・・・というか、彼らの音楽は、このアルバムにおいて、ひとまず完成したのではないかと思えます。実にクール且つ自然な音。彼らの完璧なオーケストレーションと完璧な演奏を聴くと、真夏であっても涼しげな感触に見舞われます。実に美しい一推しのトリガリング・ミスの傑作です。
YoutubeからBetween Cagesが消失していますので、次点でお気に入りのこれを載せておきますね。Triggering Mythで Now that my house has burned down, i have a beautiful view of the moonです!