Cafe Evil 9

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Kansas

 1974年にリリースされたカンサスのファーストアルバムです。

 Can I tell youやBringing it back、The pilgrimageなどアメリカの南部臭が漂う小曲、バラードのLonely wind、ひたすらハードなBelexes、大曲Journey from mariabronn、ApercuそしてDeath of mother nature suiteと幅広い楽曲が収められています。

 

 このアルバムを聴くと、Kansasの音楽の原形はデビュー当初から完成されていたことが良く分かります。インストルメンタル・パートに十分な力量を発揮しつつ力強いボーカル・ハーモニーも聴かせます。

 

 大曲は小曲の寄せ集めの組曲構成やましてやジャムセッションの録音ではなく、ボーカルや各楽器のパートがしっかりとアレンジされて作曲されています。マルチプレーヤーのKerry Livgrenの素養によるのでしょうか。アクロバティックな演奏を要求する作曲ではなく、ごくごく普通のテンポで、メロディーが重視されていますので、特段に緊張することなく聴けます。

 

 特筆すべきは、Journey from mariabronnとDeath of mother nature suite(邦題は「栄光への旅路」と「母体崩壊」)です。Journey from mariabronnはヘッセの小説に影響を受けて作曲されたもの、Death of mother nature suiteは環境汚染を嘆く歌とのこと。motherとは文字どおり母なる大地を指します。この2曲の構築性はボーカル・パートとインストルメンタル・パートの配分、各楽器の位置付け、楽曲の展開方法等において次作以降の彼らの楽曲の基礎となっています。イントロもソロもエンディングのキメも完璧です!アメリカン・ハードの完全体ですね!このように、彼らの音楽的素養、資質、作曲力、演奏力は、一聴すれば明らかな通り、デビュー当初から非常に優れたものだったのです。

 

 Kansasの楽曲とイギリスを中心とする所謂プログレッシブ・ロックのそれとの決定的な違いは、第一にボーカルパートがインストルメンタル・パートに埋もれていないこと、第二に楽曲そのものが非常にポップに纏められていること、第三に丸みを帯びた骨太のサウンドであること、第四に展開を繰り返しても終始ドライブ感を失わないことです。一言で言えば、アメリカン・ポップスプログレな要素完全にフュージョンしているってことでしょうか。そして更に、どの曲も、ある種Kansas特有の哀愁を帯びています。

 

 このカンサス・サウンドを決定付ける顕著な要素を一つだけ取り出して述べるとするならば、それは、ロビー・スタインハート(R.I.P.)の南部臭漂うバイオリンです。彼のスタイルは、カントリー・ミュージックのリード楽器としてのバイオリンをそのままロック・ミュージックに移行させた線の太い力強いものです。当該バイオリンは古典的な構築性に加えて、南部フレイバーを漂わせるスパイスとしてもしっかりと立ち位置を確保しています。

 このアルバムは、発売当時、セールス的には思わしくなく、1974年7月のビルボードにおいて174位を最高に10週間チャート・インしたに過ぎなかったようです。しかし、それは、当時の聴衆の欲した音とバンドの方向性との乖離に他ならず、Kansasの構築した音楽を受け入れるべき土壌が当時なかったことを顕わす一つの事象に過ぎないのではないかと思われます。

 

 このように、めっちゃ思い入れが強すぎるこのアルバムですが、アメリカでのリリースと同時には邦盤は発売されませんでした。カンサスの国内盤は3rdの仮面劇が最初で、続く、永遠の序曲でブレイク、暗黒への曳航が爆発的なヒットとなり、はじめてこのアルバムとセカンドが同時に発売されたのです。発売されるちょっと前にはNHKのFMの夕方の番組で放送され、それをエアチェック(>死語)して聴き倒していました。発売と同時にお小遣いを叩いてまとめ買いをして、さらに聴き倒しましたので、そんなことからも、ますます思い入れが強いんですよ。

 

 カバーアートの人物については、しばしば、リンカーンと間違っている方を見かけます。正解は、カンサスの歴史と不可分な人物ジョン・ブラウン

 カンザス州議会議事堂にJohn Steuart Curry描いた壁画Tragic Preludeの中央部分をジャケットに使用したものです。ジョン・ブラウンに興味のある方はこちら(wiki)をご覧ください!